読書

2021年ベストブック!│レイ・ブラッドベリ「華氏451度」

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毎年6月にベストブックと出会うことに定評のあるわたしですが、今年も出会いました!!

今回ご紹介するのは、レイ・ブラッドベリ「華氏451度」。ちょうど 100分 de 名著 でも取り上げられているので、タイトルを目にしたことがあるよという方も多いかもしれません。

控えめに言って、人生のベストブックにINするくらい感動しました。そして、すべてを読み終えた後にはまた別の衝撃が待っているという二本立て……!

今回は華氏451度のおすすめポイントをたくさん語ってゆきたいので、さっそく本の紹介にまいりましょう!

瑛
今回の記事にはネタバレを含みません。次回公開の考察記事はネタバレたっぷりでお送りします!

原書も買いました

この感動、ぜひ元の言語でも楽しみたいと思って原書も買ってしまいましたことを、ここにご報告いたします……!

考察記事も書きました

(自分でも引くほどのめり込みました。2021年激推し本です!!)

考えるために、必要なもの。│「華氏451度」のんびり考察その①レイ・ブラッドベリ「華氏451度」の考察記事、ついに公開開始です! あいさつ文が味気ないところからも何となくお察しなのですが、そう...
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華氏451度ってこんな本!

華氏451度は、1953年:レイ・ブラッドベリによって書かれたSF小説

SFというものの、ブラッドベリの作品はかなりファンタジーに近いものが多いのでゴリゴリのSFはちょっと……という方にも親しみやすい

さすがに魔法は出てきませんが、その代わり高度に成長した魔法みたいな生活を垣間見ることができたり、いつか実現しそうな「いわゆる」夢の未来世界を垣間見ることができるのでファンタジー小説よりも没入感が高め。

瑛
いわゆる、って書いたのはいいことばかりじゃないからなんだよね。

便利になりすぎると人間はダメになるというのはあるある設定ですが、ブラッドベリの小説の中ではこれが特に顕著に、そしてリアリティたっぷりに描かれています。

便利すぎて人間の能力が下がっていったり、使い方を間違ってしまったり、技術が進む一方で倫理的・文化的には全く進化しないどころか徐々に退化してゆく人間の対比を楽しむこともできる一冊です。

瑛
そしてなにより全世界の本好きさんにお勧めしたい一冊なのです!

なぜなのか。

それは、この華氏451度の舞台が本を読むことはもちろん、所持するだけで罪になる上に、本を燃やす専門職が存在するというぶっとんだ世界だからなのです。

本を読むことも、持つことも罪!?

壁のテレビ的な装置で離れた人とお話ができたり、悪いことをした人をぶちのめす追い詰めるための機械猟犬なるものが開発されていたりと、技術レベルは今の世界より数歩先を行っているといった印象の世界で物語は進行します。

さらに面白いのが、華氏451度の世界では本を読むことはもちろん、持っているだけでも罪になるというところ。

そして、主人公は人間を迷わせ狂わせる「本」を燃やす「昇火士」を生業とするモンターグ

瑛
日本語訳では「消防士」「消火」⇔「昇華」をかけているのかな?

ちなみにこの昇火士という職業、原書では「fireman」そのまんま「消防士」の表記になっています。途中「もともとは火を消すのがお仕事だったんだって」と言われるシーンがありますが、長い年月の間にfiremanは火を消す側から火をつける側に立場が変化したようです。

文化的な意味はもちろん、記憶や経験を継承するための道具としての本が焼き払われる世界なので、人々は当然思考力を失ってゆきます(というか、物語開始直後の時点でもうすでにほとんど残っていないです)。

瑛
たとえばこんな感じ!

耳に《巻貝》(イヤホンみたいなもの)を四六時中装着し、読唇術で旦那であるモンターグの会話内容を読み取る妻ミルドレッド

壁の映像装置に映し出された人々とセリフを読みあって家族ごっこをする妻ミルドレッド

戦争してるのに戦争してることを知らない住民たち(どういうことなの)

最後についてはもう「え???」って感じなのですが、それもそのはず、この国の人たちは耳には四六時中(もちろん寝るときも)《巻貝》を装着しているから音声情報はまるで入ってこない上に、ラジオも何を言ってるかよくわからないという感じで聞き流されているので、みんな国の行く末や現状には無頓着。

だけどこれ、実は冒頭から一触即発の戦争待ったなし状態なんです。

瑛
もうやめて!! とっくに住民たちの思考力はゼロよ!!

 

なんとなく、この辺りはいまの世界に置き換えても全く同じことが起きているような気がします。

緊急事態宣言って言われているけれど、身近なところに感染した人はいないから何となく遠い世界の話みたいに考えてしまったり。

オリンピック開催の話も、どうするべきかなんて火を見るよりも明らかなのに、なんだかよくわからない権力やら関係性やらがあるらしくて、よくわからないから傍観するだけになっていたり。

こういう、実生活につながるリアリティにぞくっとさせられる瞬間がたくさんある一冊です。

 

最初のあたりは「意味不明」が正解

三人称視点ながら主人公:モンターグの目線で物語が進行するので、最初は意味不明なタイミングで戦闘機が飛んでくる描写が入ったり、途切れ途切れに戦況を報告するラジオの描写が入る程度なので、読者は思いきり「何言ってんだこいつら」というモンターグはじめ住民たちと同じ視点を味わえます。

読書が苦手な人ほど深く考えて「え、なにこれ……」ってなりがちですが、大丈夫です。わけわかんなくて正解なので、そのまま読み飛ばしてOK。

気になったら、最後まで読んで全貌を知ったうえでもう一度最初から読み直すのがおすすめです!

本とともに燃えゆく老婆との出会い

さて、物語開始当初のモンターグは文字通りのファイアマン

本を燃やすことに楽しみを覚え、「灰になるまで焼け、そのまた灰を焼け」という昇火士公式スローガンのもと月曜日にはミレー、水曜はホイットマン、金曜はフォークナーを焼いている火炎マンですが、お隣に越してきた不思議な少女:クラリスとの出会いで彼の中に小さな疑問が芽吹きます。

その後、本とともに焼死する老婆と出会ったことをきっかけにモンターグの世界は一転します。

瑛
この世界での罪人やお役所から目をつけられている人というのは、まっとうな知識を携えた一筋縄ではいかない人間のことだよ!

たいていの人は、まっとうな知識を持つ人の話を聞くと自分の無知があらわになるので嫌な気分になっていらだつのですが、モンターグはいらだちながらも自分の疑問と向かい合おうとするのです。

朝から晩まで忙しい昇火士という職業柄、四六時中《巻貝》を耳に突っ込んでいたり、壁の人と話していたりしなかったのが彼から思考力を奪わなかった一因なのかも!

そのせいか、昇火士の中にはわりとまともな人もいる様子。とはいえ灰になるまで焼いて、そのまた灰を焼いているので何とも言えないんですがね……。

ふつうの小説だと全体の半分~もうちょい先でようやくここまで到達するのですが、華氏451度はなんと全体のおよそ五分の一ラインでこの展開に。

瑛
爆速!!

モンターグが思考に目覚めてからがメインの展開となるので、ここまでの展開は超速です。逆を言うと、この最初の五分の一ラインを超えるまでは思考力ゼロ状態のモンターグ君が見ている意味不明な世界を垣間見ることになるので、断片的な情報に振り回される感を楽しむこともできます。

瑛
考えるための材料=知識がなかったら、考えても「わからない」ってなるだけでそりゃイライラするよね……読書を通じてこのイラつきや焦りを伝えるブラッドベリ、最強

本を守る人々との出会いと、それから。

さて、本を守るために死んだ老婆との出会い以降のモンターグは以前出会った英文学教授:フェーバーのことを思い出します。

彼の家を訪ね、本を人質に無理やり協力させるお互いの目的のために助け合うところまでこぎつけるのですが、その後の展開がまさしく怒涛

本に関わったモンターグは、昇火士とはいえ罪人。当然追われる立場になるわけで、追ってくる昇火士はみんな当時の同僚(それはそう)

おまけに戦争の影も色濃くなってくるという、混乱が狂気を、狂気が混沌を呼ぶ展開が待っているのですが、それと同時に世界の様子を静かに記憶し続ける人たちがいることがわかります。

瑛
ここの詳細は盛大なネタバレになるので、考察記事で深く紹介するよ!

読後感について

SFモノは読後感が……ということも多いのですが、華氏451度の読後感には希望があるように思います。

もちろん全部が全部ハッピーエンドではないけれど、希望で照らされた未来への道が見える、そんな終わり方なのでバッドエンド恐怖症の方も安心して読み進めることができる一冊です◎

おまけ│読後の衝撃について

この華氏451度、感動しすぎて原書でも読みたいと思いつい先日原書を買いに走ったくらいのベストブックだったのですが、なんと本の最後、著者紹介の欄にこんなことが書いてあったのです。

瑛
なんとブラッドベリの最高傑作は華氏451度じゃない(らしい)!!!!!

これ以上の感動と衝撃は、わたしの心臓が止まってしまうよ……。

買ってきました

ええ、もちろん買いに行きましたとも。

最高傑作なんて言われたら放っておけるわけないじゃないですか……!

え? 左右の二冊は何かって?

瑛
火星年代記だけ買おうと心に決めて書店に行ったわたしが、見事に読書欲に打ち負けた結果がこれだよ!!

最後に│まとめの引用メモ

人生のベストブックにINされた華氏451度、全力で推したい気持ちを書き綴ると止まらなくなってしまいそうなので、以下に作中からの引用を。

ピンとくるものがあったそこのあなた! 華氏451度、読んでみてください!

考えるために、必要なもの。│「華氏451度」のんびり考察その①レイ・ブラッドベリ「華氏451度」の考察記事、ついに公開開始です! あいさつ文が味気ないところからも何となくお察しなのですが、そう...
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わたしは事実については話さんのだよ。事実の意味をこそ話す。

われわれがただひとつ頭に叩き込んでおかねばならないのは、われわれは決して重要人物などではないということだ。知識をひけらかしてはならない。他人よりすぐれているなどと思ってはならない。われわれは本のほこりよけカバーにすぎない、それ以上の意味はないのだからな。

ぼくはおじいちゃんのために泣いているんじゃない、おじいちゃんがしてくれたことのために泣いているんだ。

ただ芝を刈るだけの人間と、庭師とのちがいは、ものにどうふれるかの違いだ、ともいっていた。芝を刈るだけの人間はそこにいないも同然だが、庭師は終生、そこに存在する、とね。

われわれにはひとつ、不死鳥が持ちえなかった美点がある。われわれは、自分が今どんな愚行を演じたか知っているという点だ。

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