以前、読書感想文のおすすめ本として紹介した短編:「野ばら」。
「赤いろうそくと人魚」の作者である小川未明の作品。
「白雪姫」や「ピノキオ」のように「野ばら」単体で絵本になっていることがないため、初めて触れる方も多いかもしれませんが、短時間で読み切ることができるため小学生から、読書感想文の課題図書に選ぶこともできますよ!
https://santenreader.com/entry/recom_book_2019s_atab
あらすじ
大きな国と小さな国の国境を定める石碑。これを守るため、ふたつの国からそれぞれ1人ずつ、兵士が派遣される決まりになっていました。
大きな国から来た老兵士。小さな国から来た青年兵士。出身や年齢は違っても、将棋を指したり家族のことを話したりして過ごすうちに、いつしか2人はさながら親友という仲に。
ところが、ここで戦争が勃発。
青年兵が戦地へ赴き、1人残された老兵。
茫漠とした毎日を送る老兵でしたが、ある日、青年兵の夢を見ます。
黙礼をし、野ばらを嗅ぐ青年兵に話しかけようとした瞬間、目が覚める老兵。
野ばらが枯れた後、老兵は暇をもらい家族の待つ南へと帰ってゆくのでした。
青空文庫「野ばら」のリンク
青空文庫でも「野ばら」を読むことができます。
戦争の理由について
「何かの利益問題から」始まった戦争。
平和に暮らしていた人々にとって、戦争の始まりなんて「関わりのない場所」で起きた「関わりのない問題」だと言うことがよく分かります。
もちろん、大きな国・小さな国という規模で見れば関わりのあることなのでしょうが、国としての考えと、その国に暮らす人々の考えはイコールではありません。
この青年も老人も、いたっていい人々でありました。二人とも正直で、しんせつでありました。ふたりは一生懸命で、将棋盤の上で争っても、心は打ち解けていました。
A国とB国が外交上の理由ですれ違っているからと言って、すべてのA国とB国の国民がお互いのことを憎んでいるわけではありません。
「野ばら」の青年兵と老兵のように、良い関係を築いている人たちもたくさんいるはず。
そういった人々が、単純に「敵」と「味方」に分けられてしまうことが、戦争の1番の怖さかもしれません。
青年兵の目線で
戦争が遠いもの、つまり将棋盤の上で繰り広げられている間は、老兵はこんなことを呟いていました。
「ほんとうの戦争だったら、どんなだかしらん」
戦争が始まったあと、青年兵はかつて共にすごした老兵と故郷を同じくする人たちと戦う中で、どんなことを考えたでしょうか。
もしかしたら一緒に笑いあえたかもしれない人と争い、わけも分からないまま戦争を続けてゆく。
「私の敵はほかにある」と思いながら、それでも敵ではない人たちと戦わなければならない日々を送る青年兵は、きっと
「これが、ほんとうの戦争でなければ」
と思ったのではないでしょうか。
老兵も心に傷を追う
南の方に「せがれや孫がいる」という老兵。
戦地に赴くことなく、無事南へ帰ることができた老兵ですが、果たして本当に「無事」だったのでしょうか。
老兵の「せがれ」や「孫」が何歳かは分かりませんが、「孫」は青年兵とさほど歳が変わらない可能性が高そう。
若い孫の姿を見た老兵が、戦争が始まるまでの期間を過ごした青年兵のことを思い出さないはずがありません。
戦争により青年兵は一生を失い、老兵は一生消えない傷を負ったのです。
知らないからこそ、知らなければならないこと
戦争を知らない国に生まれたことは、間違いなく幸せなこと。
だけど、いまもどこかで戦争は起きています。
ただ「怖いこと」という認識だけでは、いずれまた戦争が起きてしまいます。
ありふれたものが特別に思える日々をリアルに想像できるのが、小川未明の童話「野ばら」。
戦争が起きた理由、どんな苦しみがあったのかは歴史の授業などで学ぶ機会も多いですが、戦火の中を生きた人々の気持ちに触れる機会は少ないもの。
終戦記念日がある8月を前に、読書を通して「平和」について考えてみてはいかがでしょうか。
それでは*
おまけ
「野ばら」以外の小川未明の童話も傑作ばかり!
どの物語も、深いメッセージ性とテーマを持った逸品です。「野ばら」が気に入ったなら、ぜひ図書館や書店に行って小川未明の作品に触れてみてくださいね*
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