コラム

【ネタバレ有】原作と徹底比較!|映画「メッセージ」レビュー

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先日、映画「メッセージ」についての記事を書きました。
今回は映画「メッセージ」の原作である「あなたの人生の物語」のレビューも兼ねて、原作と映画を比較しながら「言語」「未来と過去」について考えていきたいと思います。

瑛
すっごく長くなってしまったので、お時間あるときにでも読んでくださいませ!

※本記事には映画・小説のネタバレを含みます。気になる方は前回記事をご参照ください!

https://santenreader.com/entry/movie-message_atab

映画「メッセージ」について

2019年7月、三連休の中日に観て感激した映画「メッセージ」。

言語学者のルイーズが専門知識を駆使してヘプタポッドと交流し、新たな言語を習得「彼らが地球に来た目的は何か?」を聞き出すばかりではなく、未来のことが分かるよう特殊な能力に目覚める――いや、正しくは本当は最初から未来を見ていたという驚愕の事実にたどり着きます。

「思考は言語から少なからず影響を受ける」という学説が、映画の中で実にうまく表現されています。

フラッシュフォワード

漫画や小説の中で、登場人物が過去の出来事を思い出しているシーン。
あれが「フラッシュバック」、つまり過去の出来事を鮮明に思い出す現象です。

それとは逆に、「フラッシュフォワード」と呼ばれる現象があります。
日常生活では滅多にまず体験することのない現象ですが、これは未来の出来事が鮮明に脳裏に浮かぶ現象のこと。

映画「メッセージ」の冒頭、わたしたちは「フラッシュフォワード」を「フラッシュバック」だと思いこんでしまうから(この時点で未来の出来事だとわかったあなたは、ヘプタポッドのお友達に違いない……!)、物語の終盤、ルイーズがヘプタポッドから

「このヘプタ語が分かれば未来も見えるようになるやで」

といった事実を告げられるまで、視聴者はルイーズのことを「かつて娘を亡くしたバツイチの女性」だと思い込んでしまいます。

瑛
観客のガードがいちばん薄い冒頭からすでに伏線を張ってくるとは……!

ちょっと日本ぽいなと思ったら

ヘプタポッドが使う円形の文字、どことなく日本を感じるな……と思っていたら、ビルヌーブ監督が来日時のイベントでこんなことを語っていました。

実は、日本のデザイン、筆や禅的なものに影響を受けているんだ。ヘプタポッドに強い存在感を抱いていて、僕にとってそれは禅に通じるものだったから。

「メッセージ」の円形文字はどこまでリアル?言語のプロに聞いてみた!

やっぱり、ヘプタポッドの文字は筆や禅に影響を受けていたんだね!

瑛
SEKIROプレイ中だったこともあって、筆や禅といった世界観に敏感になっていたのかも。

回生三すくみ(じゃんけんのような構図)などなど、随所に禅や円環を感じさせる世界観とにかく考察しがいのあるストーリーが魅力。

瑛
さすがフロムソフトウェアさん!
 

いろいろ語りたくなりますが、話が脱線しそうなのでまたの機会に。

円窓とヘプタポッドの文字

禅における書画の一つに、円窓図(えんそうず)というものがあります。

茶道の経験がある方なら、茶室に丸がひとつ描かれた掛け軸がかけてあるのをみたことがあるかもしれませんが、あれがまさに円窓図

円が意味するものは宇宙だとか真理だとか、あるいは悟りだと言われていますが、その解釈は見る人に委ねられるというのが一般的。

瑛
あれ? たしか映画の中でもそういうシーンがあったような……。

これです。ヘプタポッドが提示した「武器」という単語。

この「武器」という単語の意味をどう捉えるかは受け手である人間に託されたわけですが、この解釈の仕方なんてまさに円窓図そのもの

映画の中では、この解釈を巡って人間たちは見事に分裂してしまいました。

武器というのはすなわち言葉だったわけですが、それなら最初から「武器」なんて言わずに「新しい言葉を与える」とかなんとか、もうちょっと言い方ってものがあったろう! と思ったあなた。

瑛
わたしも最初はそう思いました。

だけど、それじゃ駄目だったんです。ヘプタポッドがわざわざ人間たちに「言葉の意味」を考えさせるような手段を選んだ理由は、12分割されたメッセージに気付いたルイーズが口にしていました。

こうでもしなきゃ、人間たちは一つにならないからよ。

「武器」という言葉を使い人間たちに意味を考えさせた理由として捉える場合、「こうでもしなきゃ、人間たちは言葉の意味を考えないから」ヘプタポッドはわざとあんな言い方をしたのではないかな、と思います。

言葉のある面だけ、つまり一つの意味しか見ようとしない人間たちに、いくつもの意味を含むことのできる新しい言葉をポンと与えた場合、絶対また同じミスをすることは目に見えているからです。

瑛
ヘプタポッドたちは「3000年後に人間の力を借りたい」って言ってたし、ここで新しい武器を渡したのがきっかけで人間に滅びられたら大変だもんね……。

複数の意味があるものを自由に解釈せよ、と言った途端これだから、正直不安になったと思う。

おまけに、2匹(2人?)いたヘプタポッドは終盤では1匹に。その理由を聞くと、

“アボットは死にかけてる(お前たちのせいでな!)”

瑛
ごめんよヘプタポッドさん……。

とんでもない暴走をおっぱじめた人間たちの様子を辛抱強く見守り、危害を加えずじっと耐え続けてくれてありがとう……!

原作「あなたの人生の物語」はどんな感じ?

ここからは、映画「メッセージ」の原作「あなたの人生の物語」の感想を、映画と合わせてご紹介します。映画見たあとに読んだのは正解だったかも。

タイトルの「あなた」が示す人とは?

タイトルの「あなた」は、ルイーズの娘:アンナのこと。原作はルイーズ視点で未来と現在を行き来しながら物語が進みます。

映画には描かれない「円環構造」

原作小説「あなたの人生の物語」では、映画「メッセージ」では描かれなかった円環構図をいくつも見ることができます。以下、原作内で確認できた円環構造を簡単にリストアップしてみました。

ヘプタポッドの構造

まぶたのない七個の眼が、ヘプタポッドの頂部をとりまいて配されていた。(中略)全集に眼が配されているから、あらゆる方向が等しく”前方”にあたっているのだろう。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.187

肉体の下面部に、連結した骨状の隆起にはさまれた開口部がひとつあることもわかった。(中略)ほかには明瞭な開口部はないので、おそらく”それら”の口は排泄孔を兼ねているのだろう。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.200

映画よりもスムーズな意思疎通

映画ではわりとサクサクと試行錯誤が進み、ブギーボードのような道具を使って”HUMSAN”という文字を通して自己紹介をするシーンがありましたが、原作ではもっとスムーズに意思疎通できている印象。

ルイーズたちが見せる動作にヘプタポッドが応答し、ゲーリー(※原作中の物理学者の名前)がパンとりんごを食べると、ヘプタポッドはゼラチン卵のようなものを持って来て同じく「食べる」動作とそれを表す言葉を発するシーンが描かれています。

公正にみて、ヘプタポッドたちは文句なく協力的だった。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.205

瑛
異界生物とサクッと交流されたら、映画的には盛り上がりに欠けるものね……。

それでも、「なんで地球にやってきたのか」という問いに対する答えの解釈には苦戦しています。

”それら”は、「見るため」とか「観察するため」と答える。事実、”それら”はこちらの質問に答えずに無言でわたしたちをながめていることもある。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.220

このあたりの描写が、映画の中のヘプタポッドの姿に近いかも。あれは、人間のことを観察していたんですね。

ヘプタポッドが使う文字

映画では目で見て確認できるこの文字、小説で読むとなかなか把握しづらいのです。

これは、ヘプタポッドは第一本目の線を書きはじめるまえに、全体の文の公正がどうなるかを心得ていなくてはならないことを意味している。(中略)これに類似する高度な統合物は、以前にも書道の意匠の中に見たことがあり、それはアラビア語のアルファベットを採用した文字の場合に顕著に見られる。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.236

瑛
難しい!!!

これを、映画版ではたった一言で言い換えているというところがすごい。

両手にペンを持って、左右の端から一つの文を完成させると考えてみて。

映画「メッセージ」

フェルマーの原理とヘプタポッド

ヘプタポッドが未来から来た生物(彼らの発言からすると、少なくとも3000年以上先の未来から来ている)だということが、そしてルイーズが核心に至る最大のヒントが、フェルマーの原理と絡めて原作中ではっきりと示唆されています。

物理学者のゲーリーが「フェルマーの原理をヘプタポッドは再現して返してきた」と口にするシーンがあるけれど、フェルマーの原理というのはわかりやすく言うと光は常に最短経路(=かかる時間が最小になる道)を通るというもの。

最短経路が分かる、ということは、つまりあらゆる道を通ったときにかかる時間を知っているということなので、転じて未来のことが分かるのでは? とされているのです。

一説では、未来予知をするためには光速を超える必要があるとかないとか。

物理学的には、物体の速度が光速度に近づくにつれて質量は無限大になるため、現時点では光速度を超えて移動することはできないとされています。

娘アンナとの過去

映画では作品を貫くキーワードとなっていた「現在と未来」の関わりですが、原作ではヘプタポッドの交流と同じくこちらも意外とあっさり「未来」「現在」が分けられています。

冒頭で、ルイーズはこう語ります。

あなたのおとうさんとわたしはあなたが生まれて二年後に最初の家を売却することになる。二番目の家を売却するのは、あなたとの離別の直後。(中略)このお話の結末がどんなふうになるかはわかってる。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.177

アンナに関係するすべての文章が未来形であることから、感のいい読者ならここで「あ、フラッシュフォワードだ」と気づくはず。

瑛
つまり、作者が本当に魅せたいことは「未来が見える」というルイーズの能力や物語の時間軸の特殊性ではない、ということだね。

そして、ルイーズの見ている「未来」とルイーズが生きる「現在」はもう一つのキーワード「ノン・ゼロサム・ゲームで交わります。

 

ノン・ゼロサム・ゲーム(非ゼロ和)

複数の人が相互に影響しあう状況の中で、ある1人の利益が必ずしも他の誰かの損失にならないことや、またはその状況のこと。
誰かが勝って、誰かが負けるという構図ではなく、両者とも(作中なら人間とヘプタポッド、自由と強制)が勝者となることもできるし、そもそも勝ち負けではなくどちらにとってもなにも起きないかもしれない、というもの。

この、ノン・ゼロサム・ゲームが物語の解釈を助ける鍵になることに、原作を読んで気付きました。

最悪な未来が分かったら、どうする?

この問いに対して、たいていの人は「回避する」と答えるはず。

ところが、主人公のルイーズは娘が死亡する(映画では病死、原作ではクライミング中に転落死)ことを知りながら、その未来をあえて変えようとはしないのです。

もちろん、葛藤しなかったわけではないことが作中のいたるところににじみ出ています。

みずからの身の安全など眼中にないその楽しげな声に、わたしは心臓麻痺を起こしそうになるでしょう。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.231

急な螺旋階段をのぼりながら、幼い娘:アンナの手を引いていたルイーズは、「自分でのぼれるもん」とその手を振り払われたときからぞっとしていたはず

瑛
娘の反抗的な気性を考えれば、母である自分が心配するほどに娘のクライミングへの愛着は増していくと知っていたから。

最初は児童公園のジャングルジム。つぎは近所の緑地帯の木々。そして、クライミングクラブの岸壁。最後は、公立公園の断崖絶壁と繋がってゆくのです。

自分が親になったときは、ちゃんと筋お通った答えをしよう、自分の子は知性を持ち、ものを考える一人の人間として扱おうと決めた誓いのすべてが瓦解していく。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.250

瑛
ルイーズの苦悩は、子育ての苦悩ではなく、娘が死ぬという未来を知りながらその未来を変えない選択をしたことに対する苦悩なんだね……。

どちらも正しい。だけど、共存はできない。

ヘプタポッドの言語に触れたルイーズの思考は少なからず新たな言語の影響を受けており、「未来を変えるべきか否か」「どちらの選択が優れているか」ということが問題ではないという概念も、ルイーズはしっかり身につけています。

これを端的に表したのが、だまし絵の比喩

有名なこのだまし絵、老婆にも見えるし若い女性にも見えるけれど、この解釈はどちらも正しく妥当です。

けれども、同時に両方を見ることはだれにもできない。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.262

これと同じことが、「未来を知ること」と「自由意志を持つこと(自分の好きなように生きること)」にも言えるのです。

選択の自由を行使するということは、未来が不確かになるということ。つまり、未来を知ることはできなくなる、ということ。

反対に、未来を知っているルイーズは、その未来に反することは決してしないのです。

未来を知る者は、そのことを語らない。『三世の書』を読んだ者は、そのことをけっして認めない。

ハヤカワSF文庫「あなたの人生の物語」p.263

瑛
この感覚に違和感を覚えてしまうことがあるとするなら、もしかしたらわたしたちがいつも使っている言葉に影響を受けている、あるいは未来を知らないからなのかも。

まとめ

とっても長くなってしまいました……!

久しぶりに大興奮、脳が熱くなるような読書体験でした。
これは文句なしの7月ベストブック&ベストムービー!

映画と原作、どっちに先に触れたらいい?

瑛
ずばり、映画→原作がおすすめ!

小説から入るよりも、映画から入ったほうがわかりやすいです!
映画では世界が分裂するなどスケールがとにかく大きいですが、小説は穏やか。

一方、小説では無駄なストレスがないぶん、映画では薄れていたルイーズの苦悩にがっつりと触れることができます。

映画では触れられなかった詳細事項を、小説で深掘りするイメージです。

瑛
最初は純粋に驚き、二度目のコンタクトは未来を知った状態で読み解くことで、ルイーズの気持ちをより深く理解できるはず。

未来を知る者は、そのことを語らない。
『三世の書』を読んだ者は、そのことをけっして認めない。

二度のコンタクトを経たとき、ヘプタポッドからのメッセージを通してこの文章の本当の意味が分かるようになるはずです。

それでは*

https://santenreader.com/entry/movie-message_atab

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当ブログ「三点リーダ」にて、心に響いた本のことや教育時事、手帳(トラベラーズノート、能率手帳、ミニ6バレットジャーナル)のことについての記事をお届けしています。 ここでの出会いが、あなたの明日に笑顔を増やす一助となりますように!