学校の先生になるための方法というのは、実は1つではありません。
よく知られているのは「大学に行って、教員免許を取って、教員採用試験を受ける」というコースですが、今日のテーマは(主に)「専門系の教員」になるためのもう一つの方法。
あまり知られていない「実習助手」についてご紹介します!
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実習助手とは
わかりやすく言うと「先生の補佐」です。その名の通り、実習の準備や片付け、器具の点検や予算管理などを任されることが多いです。
教諭とは違って担任が持てなかったり、教諭なしで生徒の引率ができなかったりといった制限こそあるものの、校務分掌は普通に割り当てられますし部活の顧問もできます。
- 一般科目については「理科」以外助手枠はなし
- 該当する専門分野の高卒資格があれば応募可
……高校3年生の進路活動時に受験できる - お給料は低め、ただし仕事は多め。
- たいていの人は助手の仕事をこなしながら夜間大学に通って、教員免許を取得して教諭になる
……専修実習助手という道もある。 - 教諭を目指すなら普通に教員採用試験を受けるよりも採用のハードルが下がる
実習助手採用試験について
各都道府県によって傾向が異なります。また、毎年必ず募集がかかるというわけではなく、年度によっては「機械系を募集するけど電気系は募集なし」といった具合に希望する専門分野の募集がないことも。
いずれにせよ、過去問を5年分ほど解けば十分に傾向を把握できるため、まずは希望する都道府県の過去問を取り寄せることをおすすめします。
専門科目の試験対策
基本的に「高卒程度」の知識しか問われないため、高校生向けの就職問題集が解ければ問題ありません。大学卒業時に実習助手を目指す場合は、専門分野の勉強はほぼ復習となるため1週間もあれば十分。
書店にはおいていないので、Amazonなどから購入するのがおすすめ。
ほぼすべての問題が企業の過去問で、トヨタやホンダなど大企業の問題が抜粋されているのがポイントです。(わたしも実際に進路指導時のときに活用しています)
さて実習助手試験のお話ですが、東京都についてはほぼ過去問です。
1ページ目は毎回測定問題、それもノギスとマイクロメータの読みなので機械系の皆さんにとってはサービス問題、その他の分野の受験者さんについてもノギスとマイクロメータの読みを覚えておいて得点源にすることをおすすめします。
いくつか選択して解く問題と必ず解かなければならない問題に分かれているのですが、選択問題は基礎の基礎が問われるため全く知らない分野の問題でもわりとなんとかなります。
逆に必ず解かなければならない問題はちょっと込み入った計算が必要だったり、きちんと内容を理解していないと答えられない問題が出ます。
【必須問題の例】
- 三相交流の計算
- 論理回路の挙動
- ダイオードの静特性 など
面接や一般教養の試験、適性試験がある自治体を受験する場合はそっちの対策に時間をかけたほうが良いかな、と思います。
面接試験について
これも都府県によるので、可能であれば経験者に話を聞いておくのがおすすめです。
面接官となるのは副校長であることが多いため「なんかわかんないけど偉い人」と捉えて緊張してしまうよりは「どこかの学校の先生」と捉えてありのままの姿を見せるほうが自然で良い面接ができる用に思います。
面接官2人に対して志願者1人であることが多く、ご多分に漏れず(?)片方は優しく、もう片方はわりと圧迫な面接を行う、よくあるパターンの面接試験。
職場で話を聞いた限り、1問だけ教育現場の「もしも」にどう対応するかを問われることが多いようです。
- 実習中に事故が起きたら、どうしますか?
- 生徒から深刻な相談を持ちかけられたら、どうしますか?
- SNSの利用について、どう考えていますか?
これらの質問はかなり深く掘り下げられます。圧をまとって質問を重ねられたとしても、冷静かつ真摯に答えれば大丈夫。
配属について
専門通りの配属は2校目からと考えておくと良いでしょう。
ただし最近は教師不足が深刻化しているので、いつまで経っても専門とは違う分野に配属……ということもあります。
例えば専門分野が「電気」だったとしても、「機械」に配属されて工作機械の扱い方を教えなければならなかったり、「化学」分野の配属となって生物や化学の実験を指導しなければならなかったりといったことはザラです。
本当は専門知識を教える先生が素人なんてことはあってはならないと思うんだけど、大人の事情で子どもたちが学びの機会を失うのはもっとあってはならないこと。
ここでふんばって分野外の知識を身につける粘り強さがあるかどうかで、その後の教員人生や仕事との向き合い方が大きく変わってくるように思います。
高校生でもなれるって本当?
本当です。
だからこそ、最初に言っておきます。
先生になるのが夢なんだ! 子供に知識を教えたいんだ! という人は別ですが、そうではなくて「公務員だから」「安定しているから」という理由で実習助手を選択するのは本当におすすめしません。
「実習助手は教員免許がいらないから取らない」という人もいますが、生徒からすれば助手だろうが教諭だろうが先生は先生。
「専門教科だけ教えられればいい」わけではなく、就職指導や進学指導もしなくちゃいけません。
問題の解き方を教えるのが先生の仕事ではなくて、本や教科書に載っていないことを教えるのが先生の役目だということがポイント。
こういうとき、自分が「就職を経験していない」「企業がどんな感じかわからない」「大学進学の仕組みも対策も分からない」状態で指導するのは絶対に無理。
より適切な指導方法を考えたり、教育を広く見渡す視点を養うという意味でも、教員免許を取得することを強くおすすめします。
現役教師だけど、教師をおすすめしない理由
1|職場で身につくスキルがない
教育的スキルは身につくかもしれませんが、それ以外のスキルは全くと言っていいほど身につけることができません。社会人として最低限必要なマナーを全く知らない、という先生は山ほどいます。
激務多忙な現場なのでちゃんとした新人研修を期待してはいけません。
いろんな場所で「最初から実戦投入」と書かれているけれど、全くもってそのとおりなので、これは実習助手のみならず教員を目指すすべての人に知っておいてほしいところだなと思います(本当はこんな環境じゃだめなんだけどね……)。
自己研鑽をすることはできるのですが、正直なところ教員免許取得のため以外の研鑽はいい顔をされません。指導力向上のために自己研鑽しようね! という規定はあるのに資格取得や教員の自己研鑽を推奨する環境ではないことが問題かなあ、と思います。
2|職場に余裕がなさすぎる
特に進学方面に舵を切っている学校の場合は、多忙であるがゆえ「仕事のことで質問したいことがあるのに聞けない」ということは日常茶飯事。
わからないことがあっても聞けばいいや、というスタンスで行くと間違いなく苦しくなります。見て覚える、先を察する力は初日から求められる職場なので「初任者だから」「高校生だったから」という甘えは一切通用しません。
これは実習助手に限らず、新規採用の先生についても同じこと。
忙しい時期でもきちんと対応してくださる先生は生徒の指導力も抜群、ということがほとんどなので先輩を見極める指標にはなりますが、正直なところそういう先生は各学校に数人いるかいないかというのが現状です。
昨今、日本の教育力の低下が叫ばれていますが、こんな劣悪な環境では指導力は伸びないし、教員同士も結束できるはずがないのでなんだかすごく納得です。
「教師の質が下がっている」という言葉の背景には、高いポテンシャルを持っている人ほど早いうちに「これは長くいちゃだめな場所だ」と見切りをつけて転職をする、という現状が隠れているように思います。
3|「オンライン」でもできる、やろうという概念がない
公立限定のお話かもしれませんが、リモートやオンラインでの授業が全く導入されない、導入されても「やった」という事実づくりのために「試しに一度やっただけ」で結局放置されているということがほとんど。
コロナが流行している中、分散登校とはいえ学年ごとに分けて登校しているので、実際に授業を行う教室は普通に密。
最先端の技術を研究する技術者を育成する! とか大学で通用する研究の素地を養う! といった大きな目標を立てている一方で、プリント1枚を提出させるためだけ、あるいは先生がPCスキル不足でオンラインが授業できないという理由でオンライン授業を導入しなかったり、教員に対してもとハンコ1つ押すためだけ、あるいはたった10分の定例会議(たいてい「今日は報告することありません」で終わる)のためだけに出勤を強要する環境というのもどうなのかなあ……と思ってしまいます。
新しいものはセキュリティの観点で云々、と説明する人もいるのですが、結局のところ「パソコン? 難しそうだし無理だからやらない」というように教員側の努力も圧倒的に足りていないかなあ……と思っています。
ちょっとみんなで結束すれば今よりも圧倒的に効率的に、しかも速く安全な授業ができるようになるのに、そのちょっとの努力や結束すら無理ってなる環境、なかなかないと思う。
現役が言うのもなんだけど、教育現場ってダークソウルの世界観に似た環境だと思ってる。みんな襲ってこないだけで実はすでに亡者化しているのかもしれない……(たまに正気を保っている強者がいるイメージ)。
4|プライベートがガンガン削られていく
頑張ったらその分スキルアップできたり、組織としてレベルアップできたりする環境ならばやりがいもあると思うのですが、残念ながら教員の場合はやりがいを吸われておしまいということがほとんど。
とにかくデジタル化が進んでいないので「それ紙じゃなきゃいけない?」と思ってしまうような煩雑な仕事が膨大にある上、クラス対応や授業の計画、さらにコロナ対応も加わるので普通に仕事をこなしていると業務終了は早くて午後7時。
時間をかけてやっている作業のほとんどがめちゃくちゃ無駄な仕事ということが本当に多いです。
【最近の事例】
- 「報告事項ありません!」を延々に聞くだけの会議
- コロナ禍の中、100人以上の規模の説明会を計画して緊急事態宣言のたびに予定がふりだしに戻るというのを延々繰り返す
もちろん、朝は6時ごろから仕事をしているのでゆったりできる時間はほぼありません。
さらに悪いことに、一度頑張ってしまうと「この手の仕事はこの先生に任せればいいや」という空気になり「常に頑張り続けていないとさばききれない量の仕事」を抱えることになります。
このあたりのことは、前回の記事にもちらりと書いているので教員を進路の一つとして考えている人の参考になればと思います。
5|生徒と接する時間が長いと怒られる
これが一番本末転倒なところで、葛藤が強い点。
放課後に生徒の学習指導をしていたり授業評価が高かったりすると「甘やかすな」「職員室で仕事しろ」と言われることがある、という点です。
生徒も先生も、人間。
当然、相性の良し悪しはあるわけで「この先生の説明がわかりやすい」と感じる子もいれば、「ちょっとわかりにくい……」と感じる生徒もいます。
生徒は悪意を持ってそう告げているわけではないのですが、これを勘違いしてしまう教員が多いように思います。
すごく強烈なジレンマなのですが、先生として働く上では「先生との関係性」を大切にしたいのか、それとも「生徒と向き合うこと」を大切にしたいのか、きちんと決めておく必要があります。
まとめ
これから先生を目指す人へ、なんだかマイナスな面しか紹介できない上に「おすすめではない」と言わざるを得ない現状、すごく申し訳なく思います。
それでも「やりがいのあるお仕事です◎」という記事を書かなかったのは、いろいろな情報を手に入れてなお、やっぱり先生になりたいと思ってくれる人、まだ先生として頑張りたいと踏ん張っている人を応援したいと思ったから。
近いうちに、後輩さんのお話もご紹介できればいいなと思います。
辛い現実を前にしてもなお、夢を追う決意をした皆さんと、最低な日々の中、折れそうになりながらも必死に頑張っている皆さんへ。
じぶんのことを、誰よりも大事にしてあげてください。
それでは、また次の記事でお会いしましょう◎