今回ご紹介するのは映画「メッセージ」。
エイリアンが出てくるSFというと「ターミネーター」や「スター・ウォーズ」など異星人vs人間という構図が頭に浮かびますが、「メッセージ」は全く新しいSF。今までのエイリアンものとは全く違う映画です。
三連休最後の日、雨をBGMに未知との遭遇など、いかがでしょうか。
Contents
メッセージ|原題「ARRIVAL」
今回ご紹介する「メッセージ」。名前だけ聞いてもピンとこないという皆さんも、「柿の種」というキーワードを添えれば「あ!」と思うかもしれません。
そうです。
これです。この映画です。
ちなみに、原作はテッド・チャンの短編小説あなたの人生の物語 。 わたしは映画から入ったのでまだ読めていないのですが、今月中には読みたいと思っています。
追記:
【2019年7月17日】
原作読みました!
がっつりネタバレ&めちゃ長いので、お時間あるときにどうぞ。
「メッセージ」ってどんな映画?
さて、メッセージについて簡単に触れておこうと思います。
本作最大の謎は、なんと言っても柿の種不思議な飛行物体。突如として全世界に突如現れたこれを巡って、世界は大混乱に陥ります。
この混乱を、言葉の力を使って収めようとするのが主人公:女性言語学者のルイーズと物理学者のイアン。
そう、この映画は「言語」をテーマにした作品。エイリアンを駆逐する人間の絆でもなければ、極限状態における人の行動に注目したものでもない、というのが最大の魅力。
目的はもちろん、生態系すら良くわからない七本足の生き物と言葉を使って交流し、お互いに意思疎通を図るルイーズの機転と情熱、なによりも「理解」を突き詰めようとするまっすぐな姿勢が、人類に迫る危機を目の前に分裂し始めた世界を動かします。
ヘプタポッドとの交流
世界中に現れた柿の種こと謎の物体の中で、ルイーズたちはタコのような外見の七本足の生き物と出会います。
どうやら、こちらの呼びかけに対して言語らしき音を使って反応しているようす。
それに、攻撃してくるつもりはないけれど、立ち去るつもりもないみたい。
そこで、言語学の権威であるルイーズに白羽の矢が立てられます。
彼女に与えられた任務は、「彼ら(七本足)が地球に来た目的は何か」を聞き出すこと。
いろいろな方面から解析しようと言うことで、同じく呼び出されていた物理学者のイアンとともにヘプタポッドにコンタクト。
会ったはいいけど、何を言っているか分からない。
こちらの質問に反応してるらしいことは分かるけど、まったくもってちんぷんかんぷん。「そもそもあいつら(ヘプタポッドたち)は質問を認識してるのか?」という疑問まで生まれる始末。とりあえず七本足の生物を「ヘプタポッド」と名付けはしたけれど、前途多難な予感……。
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言葉が駄目なら、文字を使えばいい
そこでルイーズが考え出したのが、文字を使った交流。
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これに対して、ヘプタポッドは円形の文字を使って返答します。
ルイーズの作戦は大成功!
この後、ルイーズは言語学の知識を駆使してヘプタポッドから送られた文字の解読を進めてゆくのですが、しばらくしてからヘプタポッドはとんでもないメッセージを送ってきます。
weaponが意味するもの
武器、という言葉が出たことをきっかけに、世界中は大混乱。異星人を敵と見なす人々が暴動を起こし、世界は次々と分裂。
ついには研究を進めるキャンプ内の兵士までもが、C4爆弾で柿の種の破壊を試みはじめます。
とはいえ、人間の何倍もの大きさ、七本足、おまけに放射線を放っているらしい生物から「武器」と聞かされたら宣戦布告だと考えてしまうのが筋。
しかし、ルイーズは諦めません。
第一のキーワード:円環構造の世界
ここでキーワードとなる言葉は2つ。
1つ目は「円環構造」。
そのヒントとなるのが、ところどころに挟まれる「ルイーズの娘」の存在。映画はルイーズが娘をなくすシーンから始まりますが、このシーンを過去(フラッシュバック)と捉えるか、未来(フラッシュフォワード)と捉えるかで、映画の見方がガラリと変わります。
いたとするなら、きっとあなたはヘプタポッドとコンタクトしたことがおありのはず。
さらに、娘の名はアンナ(HANNAH)。上から読んでも下から読んでもアンナ、つまり回文となっている名前です。
(ただの偶然ですが、イアン役のジェレミー・リー・レナーの名前 “Renner” も回文になってるんです)
円といえば、
ヘプタポッドが使う文字も円形では……? とお気づきのみなさま、お目が高い。
本編のネタバレになってしまうためこれ以上のお話は別記事にしようと思っていますが、本作の大きなキーワードが「円環」つまり「終わりが始まり、始まりが終わり」ということなのです。
ヘプタポッドの使う文字は、表意文字と呼ばれるもの。一つの文字で「こんにちは」という意味を表すこともできるし、「こんにちは、久しぶりに会えて嬉しいよ。最近どう?」といった複雑な意味をもたせることもできるのです。
異なる複数のものが集まって一つの形(あるいは意味)あるものを形成する、ということが、本作を貫く、そしてルイーズの生き方そのものを表す概念でもあります。
第二のキーワード:言語
本作のテーマが言語であることを考えれば、こちらが第一のキーワードかな? と迷ったのですが、第二のキーワードが「言語」。
円環構造を支える柱、と言っても過言ではありません。
これを如実に表したセリフが、
思考は話す言葉によって規定される
というもの。サピア=ウォーフの仮説に基づくもので、人間の思想や思考は少なからず言語からの影響を受ける、というものですが、これが映画の中で実にうまく表されているんです。
●人間
解釈の決まった言葉(文字)を用いる
ex.「武器」と言われれば「危害を加えるもの」だと考えてしまう
→物事を「善か悪か」「勝ちか負けか」など二者択一で考えがち
ヘプタポッドを敵と見なすか味方と見なすかで分裂
●ヘプタポッド
複数の意味を含んだ複雑な言葉(文字)を用いる
ex.「武器」という言葉に複数の意味を持たせることができる
→善悪、勝敗よりも「最も意味のある選択」を重んじる
そもそも目先の結果には興味がない
(問題にしているのはもっとずっと先の話)
かちっとした意味を持つ言葉を使うために、わたしたちは「正しいのは何か」「つまり何なのか」という曖昧さを排除した一つだけの意味に執着しがちです。
地球温暖化が問題になってるのは知ってるけど、一人の行動で変えられるか否かを考えて、変わるわけないよねと思って自ら行動することをためらってしまう、なんていうのは物事を白か黒かで捉える人間らしさを象徴する例の一つかもしれません。
ヘプタポッドが地球に来た目的が分かるだけじゃなくて、さらに別の視点、思考が手に入るということ。
これこそが、ルイーズを取り巻く「謎の記憶」と、彼女の「過去と未来」をつなぐ鍵となります。
まとめ
ヘプタポッドとの交流を通してルイーズが得たものは、計り知れないほど大きいものでした。
それは経験という意味も含んでいるし、傷という意味も含んでいる。
この映画を見たあと、あなたもきっとこのことが直感的に理解できるはず。
ルイーズの問いかけを記して、この記事を締めくくろうと思います。
未来のことが分かったとして、あなたはその未来を変えたいと思う?
この問に対するあなたの答えは、きっと、映画の中で見つけられるはず。
それが、ヘプタポッドからあなたへの「メッセージ」かもしれません。
こんな人におすすめ
- 哲学が好き
- SFは敬遠しがち(だけど落ち着いたSFなら見てみたい)
- 人が死なない映画をゆっくり見たい
- 言葉が好き、本が好き
- 新しい視点を手に入れたい